専業農家になって5年目。生産者が少なく市場の値がつきやすいセロリ栽培が、自分に合う農業スタイルの行き着く場所だったと語る。
特有の風味とシャキシャキの食感がクセになるセロリ。
今回は、毎年「しゅんかしゅんか」に春セロリを届けてくれる府中市・古川常雄さんを訪問し、ニッチなセロリ栽培の奥深さに触れてきました!
繊細なセロリづくり
古川さんは、約4,500本のセロリをハウスで育てている、セロリに特化した農家さんです。
ごく一部では、キュウリ、トマト、ナスなどを夏から秋にかけて育てていますが、それ以外の時期はセロリの栽培のみに注力されています。
爽やかな香りが広がるハウス内には、一面ぎっしりと青々としたセロリが並んでいました。
セロリには「トップセラー」と「コーネル」の二大品種があります。
緑色が濃く香りの強いトップセラーは西洋料理などによく使われます。
一方で、古川さんが栽培しているのはコーネル。柔らかくてクセも少なく、生でもおいしく楽しめる品種です。
タネを蒔き始めるのは、毎年9月のお彼岸の頃。育った苗は、12月から1月ごろに定植し、約3ヶ月かけて生育させ、3月下旬から4月にかけて収穫していきます。
セロリ栽培の中でも特にたいへんなのは、温度管理と水やり。
ハウスの温度は、セロリにとっての適温よりも少し高めに設定し、柔らかく大きく育つように工夫されています。
また、セロリは水が多く必要で、かつ同時に水はけの良さも重要なため、水やりの見極めはまさに職人感覚。
府中の立川崖線の下の土は、粘土質で水はけが悪いという特徴があるため、畝を高く上げて水はけを良くする工夫をされていました。
さらに驚いたのが、セロリの種は固定種で、ここ数年は翌年分を毎年自家採取していること。
固定種であるコーネル系は、F1品種のトップセラーと比べると生育にはばらつきが出るものの、味が大きく違うそうです。
ニッチな戦略
栽培期間が長く手間もかかるため、東京都内でも数少ないセロリ農家。
さらに、古川さんのように市場出荷を行なっている農家はほんの数軒だといいます。
昔は、古川さんの畑でも、セロリを含め少量多品目で40品目ほどの野菜を栽培されていました。しかし、少量多品目だと野菜ごとに異なる作業が多く、またハウスを区切って作業するのも手間がかかります。
それなら、つくるのはたいへんだけれど、誰もやっていないからこそ値崩れしにくくニッチな取引ができるセロリに集中しようと決断し、セロリメインに転向されました。
シーズンを迎えると一気に収穫する春セロリ。
8〜9割は市場に出荷し、一部がしゅんかしゅんかに特別に届けられています。
店頭に並ぶ春の香りを皆さんもぜひ味わってみてください。セロリは足がはやいため、新鮮な地元産は驚くほどに味が違いますよ!
自分らしさが現れる農業
お話の中で特に印象的だったのは、「セロリ栽培は自分の性格に合っている」という古川さんの言葉。
いろいろな野菜をつくる方が楽しい農家さんもいれば、セロリに専念する古川さんのような形態も。
「自分に合ったフィールドで、自分にしかつくれない味を生み出す」これも、都市農業のおもしろさの一つなのかもしれないと感じました。