ゼロから農業を学び現在は年間で70品目を超える野菜や果樹を栽培。
農作業と並んで「青木農園 農家料理」を運営。自身の畑で採れた野菜を使った料理が地元の人々に愛されている。
「大人が自分自身を大切にできるようになるための食育をやりたいんです」
穏やかな表情でそう語るのは、多摩市和田・青木農園の青木幸子さん。
すぐ近くを大栗川が流れる畑道を歩きながら、幸子さんの運営するレストラン「青木農園 農家料理」を訪ねました。
どこか昔懐かしい感覚を覚える木の温もりに溢れた店内で、農業やレストランの運営を通じた食育や、食を中心に生まれるコミュニケーションへの思いについてお話を伺いました。
ゼロから学んだ農業
幸子さんは、農家に嫁いだことをきっかけに就農。それまで野菜づくりの経験は無く、ご自身で多くの本を読んだり研修会に通いゼロから学びを深めていきました。
東京都の女性農業者団体「ぎんなんネット」へ加入すると、同じように農業と向き合う仲間との出会いにも恵まれました。
現在は年間で70品目ほどの野菜と果樹を栽培していますが、すべて栽培期間中は農薬不使用というこだわりぶりです。
(畑には、青々と丸い形が可愛らしいパッションフルーツも)
就農当時、農業について学びながら、三人のお子さんを育て、さらにご家族の介護も重なりとてもいそがしい日々。
その頃を振り返り、「食事は家族のコミュニケーションにとって本当に大事。当時はそんな時間をじっくり取ることができなかったという思いがあるの」と話してくださいました。
この経験が、今自分で育てた野菜で料理を提供する農家レストラン運営に繋がっています。
(レストラン入口のミニ看板)
(お店の軒先には、ずいきやポップコーンも)
食事を楽しむ姿を見せる
「青木農園 農家料理」は、毎週木曜〜日曜に営業。旬の野菜からメニューを考え、スタッフと二人三脚で丁寧に作り上げます。
素材の味をシンプルに楽しめる料理は、「地元の人に来て食べてほしい。自分が暮らす多摩市でこんな野菜が作られているんだよって」と語ります。
幸子さんが目指すのは、「大人の食育」。
「子どもが巣立ち夫婦だけの暮らしになると、途端に毎日の料理が億劫になってしまうもの。でも、食事は健康の基本だし、ご飯づくりを楽しんでいる大人の姿を見せることも子どもたちにとっての大事な食育でしょ?」と話します。
「農家が自分で料理を出すお店」に来るお客さんは、野菜の調理法を積極的に聞く方も多いのだとか。下ごしらえの仕方やレシピを教えることもあるそうです。
(毎年たくさん採れるという金柑。「好きなだけとって持って帰っていいからね」というお言葉に甘えて収穫を体験させていただきました)
コミュニティ農園の夢
レストランでは、いろいろな大根の食べ比べをしたり、野菜の花を味わってみたり。
「ここで出す料理は、野菜が持つ自然の色や形を感じながら、じっくり噛んで食べてもらえるように意識しています。ほら、これは大根の花を添えているのよ」と、ある日のプレートの写真を見せてくれました。
大根の花は、大根らしいほのかな辛みや香りがするーそんな、農家にとっては当たり前のことが、普段畑に入らない人にとっては新鮮でおもしろい発見になる。
幸子さんは、季節ごとに姿を変える畑の面白さを、この町に暮らす人たちと共有したいと考えています。
(11月に提供されていた野菜プレートの例)
「いつかはここでコミュニティ農園をやりたい」と夢を語るその視線の先には、地域の人々が畑に集まり、会話を楽しみながら農作業をしている光景がすでに見えているように感じました。
(取材が行われた12月中旬の畑には、複数の大根が育てられていました。手書きの文字が温かい木札も)
(「明日からお店の料理で使う用と、こっちはあなたのお土産用ね」と露地栽培のからし菜を収穫する幸子さん)
(金柑、からし菜の他にも、ゆずや完熟かぼすまで…!たくさんのおいしいお土産をありがとうございました!)