ご自身で育てるぶどうを一房ずつ観察しながら、まさに職人らしい厳しい目で仕上がりをジャッジする姿が印象的です。
東京・立川市。多摩モノレールの砂川七番駅を降りて歩くこと5分、さまざまな果物がデザインされたおしゃれなロゴの看板が目に入ります。
ここ「高橋果樹園」は、年間で10種類以上の果物を手がける農園。
畑道を歩くと、イチジクの甘い香りが漂う8月初旬、高橋果樹園の果物のおいしさの背景に触れるべく、園主の高橋尚寛さんを訪ねました。
果樹栽培が好き
高橋果樹園は、実は先代のお父様までは植木業が中心でした。
「自分が継ぐなら、食べるものを作りたかったんです」と話す尚寛さんが就農されたのがおよそ15年前。
農業試験場で野菜栽培を1年間、果樹栽培を2年間学び、ブルーベリーの栽培から果樹園としての第一歩を歩み始めました。
果樹園へ切り替えた決め手を伺うと、「野菜と比べて、果樹は仕立て方がよりおもしろいと思った。好きなんですよね」と尚寛さん。
徐々に品目を増やしていき、今では桃、イチジク、ぶどう、キウイなど多様な果樹を、複数のスタッフを雇用しながら栽培しています。昨年春には、梨の「根圏制御栽培」への挑戦もスタート。うまくいけば、来年収穫できるようになるとのことで今からとても楽しみです。
主力・ぶどう栽培の裏側
高橋果樹園で特に人気なのが、8月下旬から出始めるぶどう。栽培を始めてから今年で8年目の夏を迎えています。
900平米のハウスには20本の立派な樹。品種は、藤稔、シャインマスカット、ピオーネ、クイーンニーナの4種類が育ちます。
今年は温暖な気候が影響し、1〜2週間ほど生育が前倒しているとか。
取材に伺った日は、ぶどうに白い袋が被せられていました。この袋がけ作業は、ぶどうを害虫や病気から守るために行いますが、品種ごとに紙の厚みを変えるという工夫が。ピオーネとクイーンニーナは、比較的色が乗りにくい品種のため、よく光を通す薄型の袋を使います。
さらに、この2種類には、樹の下全体を覆うように大きな白い布を張ります。これが反射板のような役割を果たし、さらに着色が促されるのだとか。「(この2つに関しては、)ぶどうを日焼けさせたいんです」という言葉に、目から鱗のスタッフでした。
自然相手の農業
「実は今年は結構難しいんですよ」という尚寛さん。品種によっては、粒の揃い方が良くないものが多いとのこと。
これには、ぶどうが開花する春頃の気温変化の影響が大きいそうで、今年は寒暖差が激しかったこともあり、一房になる粒ごとの開花時期がずれ、仕上がりのサイズに差が出てしまったのだとか。味はもちろん、房としての全体的な美しさも重要な要素であることがわかります。
房の美しさを決める大きな要素が、「摘粒(てきりゅう)」という工程。「摘粒は、頭の中で仕上がりをイメージして行うので、これが理想通りに決まった時は爽快です。果樹の中でもぶどう栽培が一番おもしろいですね」と教えてくれました。
振り返ると、昨年は長梅雨と日照不足の影響が大きかったよなあ…と。
毎年自然と付き合いながら新たな課題と向き合う農家さんの苦労と努力によって、おいしい東京産の果物は生まれているのだと痛感します。
今年のぶどうは、8月下旬から9月中旬ごろまで入荷予定。
ぜひ高橋果樹園さんのホームページで更新される情報や、立川にある直売所「のーかる」の店頭をチェックしてみてくださいね!