農業に関する研修会にも足繁く通い、他の農家との交流や新しい知識のインプットを続ける。
今年借りた新しい畑では、ただ生産するだけでなく、地域の人を巻き込むスタイルを考え中。
日野パイロットファームのこれまで
「他の人がやっていない、新しいことをやり続けていきたい」
日野市で営農しておよそ20年になる遠藤喜夫さんは、自身の農園の屋号「日野パイロットファーム」にそんな思いを込めました。
30年間勤めた金融機関を早期退職されてから、山仕事を3年ほど経験。その後しいたけの栽培に取り組み始めました。生産がピークの頃には、60坪の圃場で年間1,800万円ほどをしいたけ栽培のみで生み出していたと振り返ります。
しかし、2011年に起こった東日本大震災をきっかけに状況は一変。
その頃すでに原木栽培から菌床栽培へ切り替えていたにもかかわらず、しいたけの売上が激減しました。
いつまで続くかわからない風評被害の中、しいたけ栽培一本でただじっと待っていることはリスク。そこで、その少し前から始めていたトマトの樽栽培を本格化することを決意します。
年間で大玉トマトとミニトマトを中心に栽培するほか、現在はヒラタケとジャンボなめこ(これが本当に大きくて旨味たっぷり)の菌床栽培も行っています。
東京産パプリカへの挑戦
そんな遠藤さんが今年から本格的に栽培を始めたのが「パプリカ」です。
きっかけは、2018年に東京都農業試験場へ視察に行ったこと。当時、遠藤さんが長く行っていたトマトの「樽栽培」「養液栽培」の機械や技術など、すでに持っている資源をそのまま活用して始められるということを発見しました。
その後すぐに試験栽培を開始、翌年には収量は少ないものの出荷も始められるように。
パプリカは、市場に出回るおよそ90%が海外からの輸入品という作物。そのうち約80%が韓国産、他はオランダ産やニュージーランド産が占めています。
これも、遠藤さんがパプリカに照準を当てた理由の一つ。
パプリカは、他のトウガラシ系の野菜同様に、鮮度の良さが味や食感を大きく左右するものです。輸入がメインの野菜ならば、畑と食卓が近い東京でうまく栽培ができれば、圧倒的な鮮度の良さで喜ばれるはず。それならまずは自分が始めてみたいと、主力のトマトと並行して、今年合計400株のパプリカ栽培に挑戦しています。
初めて栽培してみて
いざ始めてみると、トマトと同じ設備でできるとはいえ、やはり管理の仕方や注意するポイントは大きく違ったと言います。
パプリカ栽培の特徴や難しさを伺うと、「色づくのに時間がかかるんだよね」と遠藤さん。実の上部がうっすらと色づき始めてから全体にしっかりと色が回るまでに、二週間以上かかるのだとか。
今年の梅雨は、長雨に加えて曇天続きで日照不足が深刻でしたが、その影響も大きそうです。
地方の産地と比べて輸送コストが小さい都市農業では、特に果物について「樹上完熟」という言葉がよく聞かれます。その名の通り、樹で完熟した状態で収穫・出荷するという方法を指しますが、これはパプリカも同じ。最初は緑色の実が、赤、黄、橙とそれぞれきれいな色に育ち完熟するまで辛抱強く待つのです。
遠藤さんのパプリカも、「しゅんかしゅんか」では出荷された日にすぐ店頭に並びますが、もうバッチリ食べごろです。
サラダ、ピクルス、マリネなど、ジューシーなみずみずしさとフルーティーな甘さを楽しめるお料理で、貴重な東京産パプリカを味わってみてくださいね。